☑ INOCA(イノカ)とは
INOCA(Ischemic Non-Obstructive Coronary Artery Disease:虚血性非閉塞性冠疾患)は、心臓の栄養血管である冠動脈に閉塞や狭窄が確認されないにも関わらず、狭心症の症状が現れる疾患を指します。心臓カテーテル検査や心臓CTで目視しても異常が見られないため、しばしば「正常」と診断されてしまうことが特徴です。
この病気に苦しむ患者さんは、日常的に胸部の圧迫感や息切れといった不快な症状を感じています。しかし、従来の冠動脈造影検査では異常が見つからない場合が多く、十分な診断や治療が行われないことがあります。それにも関わらず、実際には心臓が血流障害により負担を受けている可能性があることを見逃してはいけません。
☑ INOCAの原因
狭心症を有する多くの患者さんは、心外膜血管の評価を目的に冠動脈造影検査を受け、狭心症の原因を明らかにしようとします。しかしながら、冠動脈造影では心外膜血管のみを評価するにとどまり、全ての要因を把握することはできません。
特にCMD(冠微小循環障害)は、冠動脈造影で確認が難しい非閉塞性冠動脈疾患(INOCA: Ischemia with Non-Obstructive Coronary Artery Disease)でも最大50%の患者に確認されるとされています。こうしたCMDの存在は、術前検査や冠動脈造影の段階で見過ごされることが少なくないのが現状です。
☑ INOCAの診断方法
当院では、これまでの通常検査では診断が困難であった冠微小循環障害を診断するシステム「Coro Flow System」を2022年6月に導入しました。心臓を栄養する冠動脈の太い部分に狭窄を認めなくても、胸の痛みを訴える患者さんの約半数に、心臓の微小血管の狭窄があることが報告されています。
カテーテル検査中に温度や圧力を測定できる特殊なガイドワイヤーと専用ソフトウェアを用いることで、微小血管の狭窄症を正確に診断することが可能となり、従来の検査で診断できなかった隠れ狭心症の有無を診断し治療することにつなげられます。
☑ INOCAの治療
冠攣縮を予防・解除するためには冠血管拡張薬が有効です。冠微小循環障害にはさまざまな薬剤の有効性が報告されていますが、まだエビデンスとして確立されたものはないため、患者さんごとに個別に治療を選んでいきます。生活習慣の改善や動脈硬化の古典的な危険因子(喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満)の管理が重要とも言われています。