1980年代に我が国から初めて報告された腫瘍で、以前は「粘液産生膵腫瘍」と呼ばれていました。膵管の内側に乳頭状(盛り上がるような形)に発育し、腫瘍から産生される多量の粘液の貯留によって主膵管や分枝膵管が拡張することから、現在では「膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)」と呼ばれています。発生する部位によって、主膵管型、分枝膵管型、混合型の3つの型に分類されており、近年の画像検査機器の性能向上に伴い発見例が増えてきています。また、腫瘍細胞の異型の程度および浸潤の有無により、(1) 膵管内乳頭粘液性腺腫Intraductal Papillary Mucinous Adenoma(IPMA); (2) 膵管内乳頭粘液性腺癌Intraductal Papillary Mucinous Carcinoma(IPMC)、非浸潤性 (non-invasive); (3) IPMC、浸潤性 (invasive) の3つに分類されています。さらに、腫瘍上皮の亜型分類もあり、胃型、腸型、膵胆道型の3つに分けられます。以前はこれにオンコサイト型を加えた4つに分けられていましたが、遺伝子解析の結果により先述の3つと性質が異なるとされ、WHO分類第5版(2019年12月発行)からは膵管内オンコサイト型乳頭状腫瘍Intraductal Oncocytic Papillary Neoplasm (IOPN)として独立して記載されました。IOPNは本質的に癌とされ、IPMNのようにadenomaといった病変は記載されておらず、(1) 膵管内オンコサイト型乳頭状腺癌Intraductal Oncocytic Papillary Carcinoma (IOPC)、 非浸潤性;(2) IOPC、浸潤性の2つ分類しかありませんが、臨床像はIPMNと同様とされています。また、浸潤性IPMCが進行すると通常型膵癌との鑑別が難しくなる場合があります。
主膵管径は通常2mm程度ですが、5mm程度に拡張していた場合には主膵管型IPMNを疑います。ただし、膵液の流れを妨げる病変がある場合でも末梢側(川で言うと上流)の膵管が拡張するので、そのような病変がないか確認する必要があります。主膵管型IPMNは癌化しやすく、10mm以上の拡張になると手術が検討されます。一方、分枝膵管型IPMNは、分枝膵管が粘液貯留のため膨らんで嚢胞状(水が溜まった袋のような形)になってくる病変です。健診エコーで嚢胞性病変として指摘されたり、胆嚢結石など他の病気の精査目的で行ったCTやMRIで偶然見つかったりすることがあります。3cm未満の大きさであれば経過観察されますが、3cm以上あるいは増大傾向がある場合には精密検査を行います。CTやEUS(超音波内視鏡検査)で 5mm以上の壁在結節(膵管や嚢胞内に見られる隆起性病変)が見られるなど癌の可能性が疑われる場合にはERCPやSPACE(連続膵液吸引細胞診)が検討されます(膵癌の項参照)。
膵癌同様、病変の大きさや浸潤の有無などによってPD、 PPPD、 SSPPD、 TP、 DPなどの手術が行われます(膵癌の項参照)。浸潤性IPMCの場合には術前、術後に化学療法あるいは化学放射線治療が行われることがあります。また、適応のある患者さんに対しては腹腔鏡下尾側膵切除術も考慮されます。