神経内分泌腫瘍Neuroendocrine Neoplasm (NEN)は、インスリンなどのホルモンを産生する神経内分泌細胞から発生する腫瘍で、ホルモンを産生する機能性腫瘍と産生しない非機能性腫瘍に分けられます。機能性腫瘍で症状を呈する場合には、産生するホルモンにより、インスリノーマ、ガストリノーマ、グルカゴノーマ、ソマトスタチノーマなどの名前で呼ばれることもあります。一般的に他の悪性腫瘍に比べてゆっくり進行することが多いですが、腫瘍の分化度(腫瘍細胞の成熟の度合い)や増殖能(腫瘍細胞が分裂して増える能力)によって悪性度に幅があり、進行の速さにも差があります。病理組織検査で核分裂数やKi-67指数(細胞の増殖能の指標)を調べ、NET G1、 NET G2、 NET G3、 NECの4段階に分類します。NETの場合はGのあとの数字が大きくなるほど悪性度が高く、NECは神経内分泌癌という名称がついていて最も悪性度が高い腫瘍です。ほとんどのNENは孤発性に発生しますが、一部には遺伝性疾患もあります。多発性内分泌腫瘍症Multiple endocrine neoplasia (MEN)1型、フォンヒッペルリンドウ病Von Hippel-Lindau disease (VHL)、神経線維腫症Neurofibromatosis 1型/フォンレックリングハウゼン病Von Recklinghausen disease、結節硬化症/プリングル病Bourneville-Pringle diseaseなどが知られています。
機能性の場合は産生ホルモンによっておこる症状や血液検査で見つかることがありますが、非機能性の場合は健診エコーや他の病気で行ったCT検査などで偶然見つかることが多いです。NENは一般的に血流が豊富で、造影剤を用いた検査で強く造影されます。ダイナミックCTあるいはダイナミックMRIという動脈、門脈、静脈に造影剤が多く流れているタイミングでそれぞれ撮影を行う検査がありますが、動脈相で特に強く造影されるのが特徴です。NECの場合は多彩で、他の癌との鑑別が難しいこともあります。多くの場合、精密検査として、腫瘍の内部性状や境界、主膵管との関係などを見るためにEUS(超音波内視鏡検査)が行われますが、 EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診)で組織を採取して診断することもあります。また、腫瘍にソマトスタチン受容体が発現している場合は、ソマトスタチン受容体シンチグラフィー(オクトレオスキャン)で集積を認めることがあります。さらに、機能性腫瘍で病変の局在がわかりにくい場合などには、SASI (Selective Arterial Secretagogue Stimulation) テストという特殊な検査を行うこともあります。
非機能性NEN(NET G1~G3)は、原則として診断がついた全例に切除を行うことが推奨されています(膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン第2版)。ただし、大きさが1cm未満の一部の症例では、即座の手術ではなく6~12か月ごとの経過観察の後に増大傾向や症状の出現などの変化が見られた場合に手術を行うという選択肢も考慮されます。リンパ節転移をおこす可能性があるので基本的にはリンパ節郭清を伴う膵体尾部切除術が必要ですが、条件を満たす一部の症例では核出術といって腫瘍をくり抜くようにして切除できることもあります。機能性NEN(NET G1~G3)の場合は、産生ホルモンによって腫瘍の悪性度が異なるため治療方針も異なります。同時性肝転移例に対しては、切除が可能であれば切除を含む集学的治療が行われます。NECに関しては、発見時にはすでに進行している症例がほとんどであり、切除可能症例であってもその切除後の治療成績は極めて不良なため、手術適応は現時点では不明とされています。 切除不能例の場合はソマトスタチンアナログ、分子標的治療薬、細胞障害性抗悪性腫瘍薬などによる化学療法が行われます。また、肝転移例に対しては、腫瘍焼灼術や血管塞栓術(TAE/TACE)なども検討されます。