当院心臓血管外科は、心臓、大血管、末梢血管に対する専門外科治療を行っています。2020年4月より琉球大学前教授の國吉幸男顧問が赴任し、3名体制となり従来にも増して積極的に高難度、緊急心臓血管外科治療を行っています。循環器内科医師、ME、他職種との緊密な連携の下で循環器チームを結成し、日本循環器学会策定のガイドラインを基にして対象患者さんに対して最適な治療が行われるように定期合同カンファランス(毎週木曜日午後)にて治療方針を討議決定しています。
当診療科はあらゆる種類の心臓血管外科治療を行っています。その術式選択においては、まず患者さんの術後QOLの改善を大前提とし、続いて手術の根治性と良好な長期遠隔成績を勘案して術式を決定しています。すなわち、長持ちする手術を行い患者満足度の高い結果を得るように治療戦略を構築します。
循環器疾患の救急患者に対する治療は、患者救命には1分1秒を争う効率的な対応が必要です。当院の特色である救急医療を活かして、救命救急部門、循環器部門との連携で循環器疾患の救急外科疾患に迅速に対応し、急性大動脈症候群、急性冠症候群、感染性心内膜炎に伴う急性心不全等の手術治療を行っています。
以下に主な治療対象疾患を記します。
1.弁膜症:弁形成術(僧帽弁、大動脈弁等)、弁置換術、自己弁温存大動脈基部再建術、Bentall型手術
弁膜症に対しては、部位に拘わらず可及的に弁形成術を主として治療を行う方針としています。特に、大動脈弁膜症に対しても自己弁温存基部再建や自己弁に対する形成術を行っています。術後坑凝固療法が不要なように、すなわち術後患者のQOLを重視して外科治療を行っています。
2.虚血性心疾患:冠動脈バイパス術、左室形成術、心室中隔穿孔閉鎖術
虚血性心疾患に対する通常の冠動脈バイパス術に加えて、心筋梗塞後左心室瘤や虚血性心筋症に対する左室形成術も行っています。急性心筋梗塞の合併症の一つである心室中隔穿孔に対する緊急での穿孔部閉鎖術は時期を逸せずに施行しています。
3.大動脈疾患:胸部大動脈瘤(上行、弓部、胸部下行)、胸腹部大動脈瘤、腹部大動脈瘤、大動脈炎症候群、急性(慢性)大動脈解離
急性大動脈解離、大動脈瘤破裂等の急性大動脈症候群は突然発症する生命予後不良の疾患であり、迅速なる手術を行っています。大動脈瘤の中でも胸部から腹部にまたがる広範囲な胸腹部大動脈瘤は最も困難な手術の一つですが、いままでの多くの経験を活かして良好な手術成績を残しています。
4.不整脈外科治療:Maze手術
心房細動に対する外科治療のMaze手術は、他弁膜症等との併存時に施行しています。
5.末期重症心不全に対する外科治療:左室形成術等、セントラルエクモ
特発性心筋症や虚血性心筋症による末期重症心不全に対しては、弁形成術や冠動脈バイパス術に加えて、拡大した左心室を切除形成して心機能を改善する術式を行っています。また、このような形成術においても心機能回復が期待できず、心臓移植が必要な症例に対しては、連携先の琉球大学胸部心臓血管外科にて補助心臓植込み手術を行っています。
6.末梢血管:閉塞性動脈硬化症、重症下肢虚血、頸動脈狭窄、バージャー病、腹部内臓動脈瘤(脾動脈瘤、腎動脈瘤など)、ベーチェット病等、胸郭出口症候群、鎖骨下動脈盗血症候群
下肢の閉鎖性動脈硬化症は間歇性跛行から重症下肢虚血とその症状は多岐にわたります。下肢切断を要する重症下肢虚血まで進展した症例では生命予後も不良で早急なる治療が必要です。血行再建が基本治療ですが、患者のQOL等を勘案して血管内治療を含めてその治療方針を決定して施術しています。
7.大静脈疾患:バッドキアリー症候群、慢性肺動脈血栓塞栓症、上大静脈症候群等の肺癌または、腎癌による大静脈浸潤の合併切除
心臓に灌流する静脈を大静脈と称します。下大静脈が肝臓背部で閉塞するバッドキアリ症候群は地元沖縄県が好発地域です。これに対する直達手術は琉球大学元教授の故古謝景春先生が開発し、國吉幸男が継承・発展させ、全国からの多くの患者さんに対して本手術を行っています。肺動脈が慢性に閉塞する慢性肺動脈瘤血栓塞栓症は、肺高血圧を伴う予後不良な疾患です。これに対する内膜摘除術は根治性があり極めて有効です。他、肺癌、腹部臓器癌による大静脈浸潤に対しても担当科と協力して合併切除を行い、可及的に完全切除を目指しております。
2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | |
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冠動脈疾患 | 11 | 9 | 16 | 22 |
弁膜症 | 17 | 13 | 28 | 20 |
大血管 | 12 | 10 | 13 | 16 |
心臓腫瘍/収縮性心膜炎 | 1 | 0 | 3 | 0 |
先天性心疾患 | 0 | 1 | 0 | 1 |
末梢血管 (シャントを含む) | 32 (シャント:26) | 30 (シャント:21) | 39 (シャント:27) | 46 (シャント:33) |
その他 (ECMO抜去・Varix含む) | 7 (ECMO抜去:7) | 8 (ECMO抜去:8) | 9 (ECMO:8/Varix:1) | 13 (ECMO:11) |
氏名 | 卒業年 | 専門分野 | 学会専門医・他 |
國吉 幸男 心臓血管外科顧問 |
1980年 | 成人心臓外科 成人先天性心疾患 大血管外科(大動脈瘤、大静脈疾患) 人工臓器(補助人工心臓植込み) Budd-Chiari症候群の外科治療 末梢血管外科(閉塞性動脈硬化症等、下肢静脈瘤) |
医学博士(琉球大学) 琉球大学名誉教授 日本外科学会 外科専門医・指導医・代議員 日本胸部外科学会 認定医・指導医・特別会員 日本心臓血管外科 専門医・特別会員 日本心臓血管外科専門医認定機構修練指導者 日本脈管学会 脈管専門医・評議員 日本血管外科学会 第39回会長・理事・名誉会員 日本静脈学会 第34回会長・理事・名誉会員 日本冠動脈外科学会 評議員 日本人工臓器学会 評議員 米国胸部外科学会 国際会員(STS) 米国血管外科学会 国際会員(SVS) 補助人工心臓植込術施行 認定医 |
新垣 勝也 心臓血管外科部長 |
1991年 | 成人心疾患および大血管領域 末梢血管外科(閉塞性動脈硬化症等、下肢静脈瘤) 透析用シャント |
日本外科学会 外科専門医 日本胸部外科学会 認定医 日本心臓血管外科学会 専門医 日本胸部外科学会九州地方会 評議員 |
盛島 裕次 心臓血管外科医長 |
1994年 | 心臓血管外科 末梢血管外科(閉塞性動脈硬化症等、下肢静脈瘤) 透析用シャント |
日本外科学会 外科専門医 日本心臓血管外科専門医認定機構修練指導者 |
小泉 景星 | 2018年 | 成人心臓外科 大血管外科 ステントグラフト手術 末梢血管外科(閉塞性動脈硬化症等、下肢静脈瘤) |
日本専門医機構 外科専門医 腹部ステントグラフト実施医・指導医 胸部ステントグラフト実施医 下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術実施医 VenaSealクロージャーシステム実施認定医 弾性ストッキング圧迫療法コンダクター |
◇非常勤医師
本院心臓血管外科部門は、琉球大学大学院胸部心臓血管外科講座関連病院と緊密な連携を行っており、以下の医師を協力医師として非常勤医師として招請、協力して診療を行っております。
氏名 | 卒業年 | 専門分野 |
山城 聡 | 1991年 | 成人心臓外科(MICS弁膜症ほか)、大血管外科 |
稲福 斉 | 1996年 | 成人心臓外科(大動脈弁形成術ほか)、大血管外科、補助循環外科 |
仲榮眞 盛保 | 1995年 | 末梢血管外科、重症下肢虚血肢外科治療、下肢静脈瘤手術(レーザー治療) |